体温と設計図。

「今週末、時間あるなら見に来ない?」
 そう電話してきたのは、逗子で不動産屋をやっている友人だった。

「秋谷の土地なんだけど。眺めも悪くないはずだよ」と続けて言った。

電話を切ったあと、 彼はしばらく勤務先のオフィスから窓の外を見ていた。
ビルから見下ろす東京の景色は、今日も整然として美しい。
けれど、その美しい景色はいつからか 何かの歯車に見えてきた。

夫は46歳。大手ゼネコンの設計部門に20年在籍している。今まで他人の建物を何十棟も設計してきた。 
一方、自邸は誰かが設計した集合住宅だ。

「いつか、自分で一から建てたい」
学生時代から言い続けて、もうすでに25年が経っていた。

妻は49歳。インテリアスタイリストとして独立して10年になる。 
雑誌やカタログで美しい空間を仕上げるのがメインの仕事だが、彼女もまた、寝室の壁の色をまだ自分で決めたことがない。
変える必要がないから、というのが理由だったが、変わり映えのしない壁紙がずっと長く続いている。

「秋谷?とても渋いわね」と妻が言った。 

葉山の先の海沿い。
あまり語られることがない、少しだけ通な選択肢。
でも知っている人は知っている、三浦半島の人気のエリアのひとつだ。

その週末、ふたりは横須賀線で逗子に向かい、駅からバスに乗った。23分。そこまで遠くない。
車窓から海が見えたり隠れたりしながら、景色は少しずつ静かになっていく。
バス停「前田橋」で降りて、徒歩3分。

現地に着いた。

更地だった。370.12㎡。111.96坪。
草が生えて、風が吹いている。建物は何もない。何もかもがまだ決まっていない。
全て自分で決められる。

「この写真が2階レベルからの眺望です」と友人が言った。 
写真を覗き込む。

そこで、ふたりは黙った。

左手に富士山。正面に海。
その海の向こうに、江ノ島がくっきりと浮かんでいる。

夫は仕事柄、土地をあらゆる視点から見てきた。 
そんな彼から見ても、富士山と海と江ノ島が同時に視界に収まりながら、更地で111坪というのは、なかなか希少な気がした。
もちろん丁寧に探せばあるのだろうが、すでに、彼の頭の中で、この土地のプランが無限に広がってきていた。

「富士山が見える書斎の真ん中に大きな特注デスクを置こう」と妻が先に言った。
「窓も大きく取ろうか」と夫は答えた。

容積率168%。第二種中高層住居専用地域。
建ぺい率60%でのびのびと建てられる。自由がありすぎるぐらいだ。

秋谷という場所は、不思議な土地だ。
観光地の鎌倉や逗子と違って、余計な賑やかさがなく、洒落ていて、粋な側面がある。
それでいて、生活がちゃんとそこにある。

「ここに住む人の顔が見える気がする」と妻が言った。 
スタイリストとして空間を作り続けてきた彼女は、いつも「そこに住む人の体温」を最初に考える。
そして、この土地は、自分の体温そのままだった。

価格は6,500万円。 建物にどこまでこだわるか?何を残すのか?何を際立たせるか?
まさに設計士とスタイリストの妄想がはじけだす。

「最近ずっと燻っていた気がしていたんだ」 夫が言った。
「恥ずかしいぐらい心が動いたよね。一晩寝かす必要ないかもね」妻は言った。

妻はスマートフォンを取り出して、黙って写真を撮り始めた。
彼女は、本気になるとき、いつもそうだ。言葉と同時に手が動く。

友人に申し込みを入れる旨、伝えると、海に移動した。

富士山が、午後の光の中でゆっくり霞んでいく。
海はずっと、そこにあった。

白紙の111坪に、ふたりの物語の設計図が、静かに描かれ始めていた。

――物語の先を確かめるのは、現地で。

物件種別 土地
価格 6500万円
所在 横須賀市秋谷1丁目
交通 横須賀線「逗子」駅バス23分「前田橋」バス停徒歩3分
土地面積 370.12㎡
土地面積(坪) 111.96坪
建ぺい率 60%
容積率 168%
土地権利 所有権
地目 宅地
現況 更地
施設 公営水道, 本下水, 個別プロパンガス
都市計画 市街化区域
用途地域 第二種中高層住居専用
法令制限 準防火地域
取引態様 仲介
引渡日 相談
備考 上記土地面積以外に通路部分(持分30分の5)43.84m2あり
※現況と図面が異なる場合は現況を優先します。
情報登録日 2026/05/23

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